大学入試の「女子枠」に反対する

京都大学が2026年度春の入学者向け入試から、理系2学部の総合型・学校推薦型選抜で「女子枠」を計39人分設けると発表した。枠の内訳は理学部15人、工学部24人。その分、一般選抜の募集人数を減らして対応するとのこと。

現在、学部生の女性比率は理学部7.9%、工学部10.1%だが、女子枠を設けることでこの比率を15%程度まで増やしたいのだそうだ。

京大総長は「女性が理工系に向いていないというのは幻想」と言ったそうだが、私はこれに賛成だ。しかし、入試に「女子枠」を設けることに賛成しない。大学入試は、あくまでも実力だけで合否を決めるべきで、性別を指標にしてはならないからだ。これは一種の「逆男女差別」にしかならない。現に、一般選抜の募集枠が減らされて、本来合格していたはずの受験生が締め出されることになる。その大半は男子学生のはずだ。我が母校が、そんな決定をしたことは残念でならない。女なら少々学力が劣っても京大に入れたいとでも言いたいのか?冗談言っちゃいけない。女をバカするな。

私が京大の学生だった頃、在籍していた化学工学科には女子は残念ながら一人もいなかった。一人でも女子学生が居れば、教室の雰囲気も少しは変わっていたかも知れないが、仕方がない。4年時に配属された研究室にも女子学生は一人もいなかった。一方、薬学部では女子学生の方が多く、男子は小さくなっていたらしい。これらは志願者数と、それに比例する合格者数の反映なので、いかんともし難いのだ。この比率を入試制度の改変で変えようとするのは、邪道である。それじゃ逆に、薬学部に男子を増やすために「男子枠」を作るのか?そんなの、誰もやらないくせに。もちろん、医学部入試で女子を差別的に不合格にしたなんてのは、話にならない論外なんだけど。

私の場合、高校時代には、男子が8割くらいで、1年・3年次が別学(男子のみクラス)、2年次だけ共学だったので、雰囲気の違いは良く分かる。無論、2年次が一番楽しかった。3年で文科理科に分かれ、その時に男女比も大幅に変わった(共学は理系1クラス、文系3クラス)。確かに理系を選ぶ女子は少なかった。しかし私は「女子が理工系に向いていない」という偏見で進路を選んだとは思わない。彼女らは、自分の好み・特性で進路を決めたはずなので。何しろ、私の高校は県下第一の進学校で、そこに来る女子はよほど「出来の良い子」に限られ、実際、頭の良い、しっかりした性格の女子学生が多かった。その彼女らが、自分の進路を決める際に単なる偏見に左右されたとは、とても思えない。

私事にわたるが、私の娘は、父親の期待に反して数学・物理・化学があまり得意でなく、好きでもなさそうだった。私は一生懸命教えようとしたが、教え方が悪かったのか、効果がなかった。しかし、何を考えたか大学では医療系を選び、今は作業療法士として病院で働いている。在学中は生化学・病理学など理系科目の勉強に苦労したようだが、何とか卒業し今は一人前の作業療法士だ。このように、理系科目の好き嫌いは、必ずしも環境要因だけでなく、生まれつきとしか思えない部分があるが、実際には女子にも理系向きの人は多数いる。

私自身、工学部で長年教員をやっていて、特に最近は女子学生の方が男子より出来が良い傾向を強く感じていた。工学部に来るような女子学生は、元々その「覚悟」を持って入学してくることもあるはずだが、能力的に見て、男女差を感じたことはない。一般に女子学生の方が「真面目」で、授業の出席率や宿題の提出率なども良かったので、成績が良かったのだ。女子で論理的思考に優れ、テキパキと物事を処理するタイプは、結構多い。

理系に女子学生を増やすために「別枠」を設けるのは、単に成績が悪くても入れる女子を増やすだけなので賛成しない。むしろ、全員同じ土俵で競わせて、並み居る男子どもを蹴散らして入ってくるような女子学生こそが増えるべきなのだ。そして、そう言う学生は必ずいる。

理系の女性研究者を顕彰する「猿橋賞」の歴代受賞者を見るが良い。優れた能力の女性ばかりだ。女性が理工系に向いていないなんてのは、完全なる幻想に過ぎない。今後も、理系に秀でた女性は必ず現れる。大人がやるべきなのは、そう言う子たちの「邪魔」をしないことだけだ。一般に、才能のある子は、黙っていても独りでに伸びる。下手に「教育」で伸ばすなどと考えない方が良い。入試も「女子枠」など作らなくて良い。

女性の研究者にとって最大の難関は、出産と育児である。特に理系の場合、実験や観測などが多いので、現場にいないことのハンディが大きい。出産を期に研究者人生を諦めてしまう例は多い。もし女性研究者を増やしたいのであれば、出産・育児がハンディにならないような制度設計をする必要がある。研究者のキャリアにおいて、出産・育児期間の空白が単なるロスとして数えられるようでは望みがない。無論、育児は女性だけのものではないが、妊娠・出産は女性にしかできないし、生後1年くらいは育児に専念しないと、母子ともに難しい状況に陥る。その後も、現状、子育ては女性研究者にとってかなりの負担になる。たとえ周囲の助けがあるとしても。女性が理系、または研究職を志望しにくいのには理由がある。入試枠の改変ごときで、その困難が解決できるはずもない。もっと、良く考えてもらいたい。