金相場の動きから考える経済のカラクリ

金地金の相場が上昇傾向している。3月に2300ドル/オンスにまで上がった。これまでは2050ドル付近に大きな上値抵抗線があり、そこを一時的に上回っても、しばらくするとまた下がることを繰り返した。しかし今後、2000ドルを下回ることはなさそうだ。

日本の相場でも1グラム12000円くらいになっている。1オンス=28.35g、1ドル=153円とすると、12000円/g × 28.35g/オンス × 1ドル/153円=2223ドル/オンスだから、ほぼ合う。つまり日本でも1オンス2000ドルを軽く超えているわけだ。

米国連銀(FRB)・金融界は、株高・債券高・地金安を好む傾向がある。ドル防衛策として金の価格を低く抑える必要があったからだ。これは金本位制の代わりに「ドル本位制」を維持するために必須だった。つまり世界の基軸通貨としてのドルの「信用」を維持するために必要だったのだ。そのためには相場の歪曲も辞さず、大量の資金・裏金を駆使して金相場の歪曲を繰り返してきた。それで、金相場は2050ドル付近を天井として、上げ止まる傾向にあった。ところが今は、その「たが」が外れかけているようだ。

FRBが行ってきたことは、いわゆる規制緩和QE=造幣による債券買い支えである。日銀その他の各国中央銀行もやっていたが、FRBの規模がむろん一番大きい。大量の資金が流入するので、実体経済は良くもないのに株価は上昇し、インフレなのに米国では国債金利が上がらず低いまま、と言う、経済学教科書にはない状況になっている。これはつまり、裏金注入の効果と言える。日本でも経済状況がイマイチの割に、株高で湧いているけど。

しかし一方、QE財政赤字の拡大でもある。つまり、赤字=国債の大量発行と引き換えに好景気と株高・債券高を演出している。日本のマスコミなどは、盛んに米国経済は好調だと宣伝するが、それは見かけ=上っ面の現象に過ぎない。実際問題として、財政赤字を永続させることは難しいから、いずれその解消を迫られる。

現在、統計数字を見ると米国の実体経済(GDP)は3340億ドル増加している一方で、米政府の赤字は8340億ドル増加している。米国では所得税収入の4割を国債利払いに当てているが、米国の金利は高いのでその財政負担は大きい。なお、日本では金利が低いので財政赤字が多くても簡単には破綻しない。金利の高低にも一長一短がある。

今の米国は国債発行=財政赤字の拡大をやりながら、その資金を金融界に回して国債を買わせ、その利払いで赤字が拡大すると言う、タコが足を食っているみたいな自転車操業を続けている。これがいつまで続くか分からないが、いつまでもは続けられないことだけは分かる。いずれ利払いだけで手一杯になり、米国債金利上昇=価値低下、国債デフォルト=財政破綻というシナリオが現実化するだろう。今は債券高=株高維持が最優先課題なので、資金はこちらに回し、金相場の操作に回す余裕がない。そのために金相場が上がり始めたのではないのか?表に見える現象からだけでも、この程度の推察はできる。

仮定の話だが、正式な形でなく、裏でこっそり造幣する「ウラQE」をやっている可能性もある。これなら無尽蔵に資金を作れるはずだが、これでは紙幣だけダブダブに余るから紙幣の価値が暴落する、つまり悪性インフレや恐慌が起こる。「ウラQE」は、麻薬と同様、一時的にはよく効いて快感が大きいが、副作用がきつい。

こんな綱渡りをやっているので、米国債の危険性に世界の投資家は気づき始めている。それで、米国債より金地金の方が安全な資産だというわけで、金を買いあさる傾向が強まり、金高騰を招いていると読める。

しかし一方、金地金の市場では大半が現物の受け渡しをしない信用取引=ペーパー市場が主流だ。現物取引の何十倍ものペーパー取引が行われている。例えばNYでは金市場の98%がペーパー取引だ。これまでは債券の方が魅力的に見えていたからだ。しかし今後は「ペーパー」の信用が下がり、誰もが現物で保有したがることになるが、実際には現物とペーパーの関係は切れている!つまり「金証書」は、現物に換えようとした途端に紙くずになる。「金に換えられる」という「信用」だけで取引されているからだ。金の現物は、かなり前に中国が金が安値の間にせっせと買い集めたので、世界の金地金の現物は、大半が中国にあるはずだ。米国やドイツの国庫に金地金は殆ど無い。これは、投資詐欺などと同じと言うか、ほぼ詐欺だよな(金に換えられるはずの証券が、実はただの紙切れ・・)。故に、今後、金の現物価格は、もっと高くなると予想される。片や「金証書」は暴落する。

ドルはすでに、石油の国債取引における唯一の決済通貨ではなくなっている。非米圏ではドル以外の通貨で決済しているからだ。「1バレル○○ドル」は既に世界共通ではない。

一方、BRICSではドルに替わる基軸通貨システムを構築中だ。まだ換算レートの決定法その他種々の問題があってゆっくりとしか進んでいないが、彼らの「おカネ」には資源や金などの「価値の裏付け」があるので、実効性のある共通通貨が作れそうだ。

その一方で、ビットコインなどの民間仮想通貨が貿易決済に使われる可能性は低い。これはパソコン上に保全された暗号文字列に過ぎず、価値の実体がないからだ。

例えば金地金には、金属としての実体的価値がある。石油その他の資源も同じだ。これらには経済的な価値の実体があるから、これらが価値ゼロになる確率は低い。しかし、ドルや債券などは「信用」だけが頼りだから、信用が崩れたら価値ゼロになる。つまりこれらは、経済的には「仮想的」価値に過ぎないのだ。

一般化すると、最初は実体価値を持つ商品(金地金や各種資源、食料など)が貨幣に換算され=値段がつけられ、市場で価格を介して取引されてしまうと、その「価値」は貨幣に乗り移ったように錯覚されて、貨幣自体が価値あるもののように認識される。この段階で、本来は価値の根拠がなくなっているのに実体価値があるように思ってしまうのだ。守銭奴とは、おカネに全ての価値が乗り移ったと錯覚している人である。それが錯覚だと分かるのは、バブルがはじけて通貨の価値が暴落する場合などである。または、無人島におカネをいくら持参しても役に立たないを実感する時なども同じ。

だから「経済価値とは実は何なのか」に関しては、今後、より詰めた検討を行う必要がある。