森永卓郎氏「書いてはいけない」を読む

経済評論家の森永卓郎氏が出版した最新刊「書いてはいけない」を読んだ。奥付は24年3月20日初版発行となっているが、Amazonに注文したらその前に届いて読むことが出来た。すい臓がんステージ4の告知を受けて、遺書として書いたとあるだけあって、内容は非常に重い。同氏はこれまで、TVラジオなどメディアの仕事をしてきて、決して触れてはいけない「タブー」が幾つかあり、これまでは書けずにいたが、がん宣告を受けて、死ぬ前に書かねばならぬと覚悟を決めて書いたのだと。

そのタブーとは少なくとも3つで、1)ジャニーズの性加害、2)財務省のカルト的財政緊縮主義、3)日本航空123便の墜落事件であると。同氏曰く「この3つに関しては、関係者の多くが知っているにもかかわらず、本当のことを言ったら、瞬時にメディアに出られなくなるというオキテが存在する。それだけではなく、世間から非難の猛攻撃を受ける。下手をすると、逮捕され、裁判でも負ける。」と言うことらしい。

実際、この話題を論じた原稿は、大抵の出版社に断られて本にできなかったとある。それに、ある時期を境に結構長い間、森永氏はTVに出ていない。恐らく、上記3件のどれかに触れた発言をした結果「干されてしまった」からだろう。その種の、TV番組のキャスターやコメンテーターで、政府のご機嫌を損ねて結局は降板に追い込まれた例は、幾つか知られている。NHKを辞めて民放に移籍して、現在も取材・報道を続けている例が実際にある。

実は私も、温暖化・脱炭素批判の本を出そうと思って、ある大手出版社に打診してみたのだが、あっさりと断られた。むろん私が無名なせいもあるだろうが、他にも理由がありそうだ。

森永氏の原稿は結局、三五館シンシャと言う、社長一人でやっている出版社から出ることになった。それで最初に出たのが23年5月の「ザイム真理教」で、部数は10万部を越えたと言う。そしてこの24年3月の「書いてはいけない」である。この2冊は、装丁がそっくりである。

「ザイム真理教」については、私の経済学理解が不足しているため、現時点では自分で納得の行く論評ができない。今読んでいる柄谷行人トランスクリティーク」を消化して、貨幣・資本・利子・余剰価値などへの本質的な理解を深めてから試みたい。

「書いてはいけない」で私が最も評価するのは、第3章「日航123便はなぜ墜落したのか」である。なお、この墜落は「事故」ではなく「事件」と呼ぶべき事象であり、森永氏はそれを実行している点にも注目願いたい。

日航機墜落事件に関しては1月にも書いたが、非常に重要な事柄であるにも拘わらず、大手マスコミには一切無視されたまま時間が経過している。これまで出された多くの関連出版物でマトモな内容のものは、青山透子氏の6冊と、遺族・小田周二氏の3冊であるが、青山透子はペンネームであり、小田氏は一般人であるため、本の「権威」というか、知名度・拡散率が実名・著名人の著作と比べて相対的に低く、マスコミの注目も浴びにくかった。もちろんその裏には、日航関係者その他の妨害もあっただろう(知られている実例もある)。その点で、森永卓郎と言う著名な人物が実名で書いた本の中で、この事件に関する詳細な記述を行ったことは画期的だと言える。

実際、森永氏のこの本を読んで日航機事件の実相を初めて知ったと言う人も多く、かなりの反響を呼んでいるらしい。参考までに、上記に挙げた本を全部列挙しておこう。

青山透子氏の著書(出版先は全部、河出書房新社):1)「日航123便 墜落の新事実」2017年、2)「日航123便墜落 疑惑のはじまり」2018年、3)「日航123便墜落 遺物は真相を語る」2018年、4)「日航123便 墜落の波紋 そして法廷へ」2019年、5)「日航123便墜落 圧力隔壁説をくつがえす」2020年、6)「日航123便墜落事件 JAL裁判」2022年。

小田周二氏の著書:(出版先は全部、文芸社):1)「日航機墜落事故 真実と真相 御巣鷹の悲劇から30年 正義を探し訪ねた遺族の軌跡」2015年、2)「524人の命乞い 日航123便乗客乗員怪死の謎」2017年、3)「永遠に許されざる者 日航123便ミサイル撃墜事件及び乗客殺戮隠蔽事件の全貌解明報告」2021年。

これらの中で森永氏が触れているのは青山氏の1)、3)、5)、小田氏の2)、3)である。私はこれらをほぼ全部読んでいるが、同氏の引用は正確である。また、興味深いエピソードも載っている。

森永氏はある雑誌に青山氏の1)の書評を書いたのだが、なぜか、青山氏の東大の博士論文が検索にかからないと言う理由で、大事な部分を丸ごと削除した原稿に改変されて世に出されたと言う。青山透子と言う名前はペンネームで、本名ではないから検索にヒットしないのは当たり前だったのに。また数年後に、今度は大手新聞から、今まで一番感動した書籍の書評を書いてくれと依頼され、再びこの本を取り上げたところ、雑誌が新聞の系列で書評は一度しか書けないからダメだと断られたと言う。他の雑誌やタブロイド紙はその書評を載せてくれたのだが。要するに、大手新聞社系のみ、あれこれ理由をつけては、森永氏が青山氏の本を宣伝するのを妨害したわけだ。なぜ、そこまでして・・?

なぜ日航機墜落事件が重要か?その理由は本書第4章「日本経済墜落の真相」に述べられている。つまり、この事件をきっかけに、日本経済を取り巻く「潮目」が大きく変わったからだと。具体的には、墜落の1ヶ月後の85年9月に決定された「プラザ合意」によって、各国の協調介入により急激な円高がもたらされ、日本経済は大打撃を受けた。何しろ、それまで1ドル240円台だったのに、2年後には1ドル120円台にまで円高になった。これは輸出商品の価格が2倍になったのと同じである。なぜこんな不利な合意をしたのか?その後の日米半導体協定も含めて、日本政府が不利な妥協を重ねたのは、日航機墜落に関して何か重要な秘密を握られていて、それをネタに脅されていたからではないか?と言うのが森永氏の推察である。

もちろん、そんなものは「陰謀論」だと一笑に付す向きもあるだろう。その正否を検証するには、墜落機のボイスレコーダーとフライトレコーダーの生データを調べたら良い。公開されているデータは、何らかの改変を受けた形跡があるので、手を入れていない生データが是非とも必要なのだ。衆人環視の公開の場で、生データの開示を行えば良いのだ。それで決着する。

実際、その生データの開示を求めて、遺族の一人が請求訴訟をしているのだが、一審・二審とも不可解な裁判経過を経て、現在は最高裁で審理中である。この裁判の経過は青山氏の著書6)に詳しく書かれている。これを読むと、日本の司法って大丈夫なのか?と思わざるを得ない。この点でも、マスコミが大注目して、おかしな判決を出させないように監視する必要があるのだ。森永氏のこの本は、その大きな助けになる点でも有用性が高いと思う。