原発をめぐる幾つかの考察

今回の能登地震をめぐって、志賀原発は大丈夫、とのニュースが流れ、デマに要注意とのことだが、こと原発・気候変動・コロナ・リニア新幹線等に関しては、どれが真実でどれがデマであるのか、非常に分かりにくくなっている。なぜなら、これらに関しては産・官・学・政・報の五者で強固な「利害共同体=ムラ」が形成されていて、一見中立的・公正な報道に見えても、実際は巧妙な宣伝だったりすることがしばしばあるからだ。

今回の能登地震で、志賀町震度7で揺れた。当然、そこに建っている志賀原発震度7で揺れたはずだ。報道では、細かなトラブルはあったが大事には至っていない、となっている。しかしNHKの報道(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240122/k10014329711000.html)を見ても、北電の発表と実際に起きた現象の間には、結構な差がある。放射能の検知に関しても、モニタリングポストで一部が機能しなかった事実がある。

私が特に注目するのは、発電所敷地内で最大35センチもの段差ができ、その写真が掲載されている点だ。発電所内で変圧器が壊れて電気が受けられない事態も発生している。これらを勘案すると、震度7地震はこの原発にかなりのダメージを与えているのではないかと推測できる。なぜなら、通常、耐震基準の審査というのは、地面(や建物の基礎部分)に異常が無い状態で「震度○で動く」ことを想定したシミュレーションその他で判定するからだ。地面が隆起・陥没する、などという事態は想定していない。地面が動いてしまったら、想定が、文字通り「根底から」崩れてしまう。ところが実際には、その「地面の上下左右運動」が観測されているのだ。

原発は一般に、幾つもの建屋で構成されている。原子炉本体を収容する建屋と発電施設の建屋は通常別棟で、両者は多数の配管で繋がっている。この配管が短時間で35センチもずれ動いたらどうなるか?ゴムホースならともかく、普通の鉄管なら簡単にちぎれてしまうだろう。こんな事態も、原発では「想定済み」なのだろうか?

また、ここの2機ある原発では、想定される地震の強さは600ガル、津波の高さは5mとなっている。今回の津波は最大約4mだったので一応基準内であるが、気象庁の観測では、志賀町の揺れの最大加速度は2826ガルである(https://www.hokkoku.co.jp/articles/-/1280005)。上のNHK報道では原子炉建屋地下2階で震度5弱相当となっているが、地上でどうだったかは出ていない。志賀町全体が震度7だったと考えるのが普通であれば、この辺も地上では2000ガルを越えていたはずだ。600ガルの耐震強度では全然足りない。つまり、原子炉本体とその周辺部にも相当深刻なダメージがあったと考えるのが自然である。しかし、原子炉本体関連のニュースは全然見当たらない。これはどうしたわけなのだ?

今回は、操業停止中の地震だったので難を逃れた、と言う面もかなりあるのだろう。もし通常運転中に建屋を繋ぐ配管がちぎれてしまったら、福島以上の大事故が起きていた可能性がある。何しろ、そんなことが起きたら非常な短時間で炉内水位が下がり、空だき状態になってしまう危険性があるからだ。

元々、この原発は1999年に国内初の臨界事故を起こし、2007年まで明るみに出なかった施設である。そして、事故が明るみに出た2007年に一時運転停止になった。2011年の大震災以降、運転停止している。ついでながら、99年事故の3ヶ月後に東海村JOC臨界事故が起きて作業員2名が亡くなった。志賀原発の事故教訓が活かされていたら、防げたかも知れない事故であった。

その後、この原発敷地内の断層が「活断層」かどうか、2012年以来議論されてきた。16年に1号機原子炉建屋直下の断層について「活断層と解釈するのが合理的」と報告された。もしそうであれば、1号機は廃炉、2号機も大幅な改修工事が必要であったが、23年3月に「活断層ではない」との北電の主張が通って廃炉は免れていた。今回の地震で、これらの断層は動いたのか動いていないのか、大いに興味のあるところだ。

志賀原発だけでなく、福島第一原発でも、耐震性が大いに危惧される事態が起きている。1号機の重い圧力容器を支える鉄筋コンクリート製の土台下部が、溶け落ちた核燃料(デブリ)の高熱によってほぼ全周にわたってコンクリートが崩壊し、鉄筋がむき出しになっていることが明らかになったからだ(https://www.tokyo-np.co.jp/article/246878)。この事実を基に、このままでは震度6強で圧力容器が倒れてしまうとの警告本(https://www.amazon.co.jp/差し迫る、-福島原発1号機の倒壊と日本滅亡-森重-晴雄/dp/4884163044)が出されている。84頁ほどの小冊子であるが、原子力の専門家が具体的な数字を挙げて検証しているので説得力がある。数字がやや多いので、一般読者には少し読みにくいかも知れないが、本文を読むだけでも危険性は分かる。この本の第2章は「1号機の倒壊を防ぐ方法」であり、対処法を示してあるのに、東電も国も何もしていない。東日本大震災の余震でさえ、震度6強が起きる可能性は十分にある。対策まで示されているのに、このまま何もせずに放置するのだろうか?

青木美希「なぜ日本は原発を止められないのか?」(文春新書)と言う本を読むと、日本の原発政策の現状が良く分かる。福島の「復興」でさえ、NHKその他で賑々しく報道されているほどには明るい現実でないことも。この種の「実態」報道は、情報が極度に少ない。

このように、原発をめぐる報道や情報には、よほど気をつけてかからないと真実を見失う危険性があることを、よく心に留めておこう。