ポピュラー音楽で好きな曲

青い影 A Whiter Shade of Pale

 この曲は、1967年にリリースされているが、私が初めて耳にしたのは1970年に入学した高校での学園祭コンサートで同級生が演奏した版である。オルガンのイントロと中間演奏のメロデイが非常に印象的だった。後になって、この部分はバッハの「G線上のアリア」とそっくりであることに気がついた。それから50年以上も経つが、この曲の魅力は少しも褪せていない。正に不朽の名曲。作者のゲイリー・ブルッカーにとっても特別な曲であったらしく、67年以来何十年もこの曲を演奏し続けていた。それに値する曲と言えるだろう。

 それにしても、この曲の原題A Whiter Shade of Paleを「青い影」と訳した人は偉い。歌詞を見れば分かるが、ある女が「不倫」の話を聞かされて顔面が蒼白になった様子を描いたのが原題で、whiterとpaleは共に「青ざめた、血の気が引いた」でshadeは陰、色合い、などの意味を表す語である。従って直訳すると「白に近い色調」となって、何が何だか分からなくなる。これを「青い影」とすると、曲想にもバッチリ合う。素晴らしい名訳に拍手!

やさしく歌って Killing Me Softly with His Song

 この曲は1973年に大ヒットしたが、私が初めて聞いたのは、1974年に大学に入り、一人暮らしの中でFMから流れてきた時である。ロバータ・フラックのちょっとハスキーな声が魅力的だった。曲はもちろんだが、歌詞も魅力的だった。「彼の歌で私をやさしく殺してゆく」だなんて。この曲もリリースから50年経つが、魅力は薄れない。曲想・歌詞ともに何とも言えない「切なさ」がある。

 この曲の日本語訳「やさしく歌って」も、見事な意訳だ。Killing Me Softly with His Songを直訳すると上のようになって殺風景な感じになる。この曲の全体から発する「切なさ」を見事に表現する名訳だと思う。

「いちご白書」をもう一度

 映画「いちご白書」を見たのは、高校2年の秋、関西への修学旅行から帰った休養日に自転車で街に出かけ、ふと目にした看板が気になって入った映画館でのことだった。実はその時に気になっていたのはビートルズの映画「Let It Be」の方で、「いちご白書」はそのカップリングだったのだ。しかし、この映画は不思議に印象に残り、後々まで私の中に長く残った。

 この曲を初めて聞いたのがいつどこなのか、思い出せない。ずっとバンバンの曲として聞いていて、作詞作曲が荒井由実だと知ったのはずっと後のことだ。メロデイも良かったが、何と言っても歌詞が魅力的だった。「いつか 君と行った 映画がまた来る 授業を抜け出して 2人で出かけた」。こんな思い出がある人は羨ましいとつくづく思った。この曲が出たのは1975年、私にとっては失恋に打ちのめされた時期だったので、余計に身に沁みたのだろう。

 後半で「就職が決まって 髪を切って来た時」とあるが、就職試験を受ける前に髪を切るんじゃないの?などという野暮は言わない方が良い。最近の楽曲には、この曲のように短い言葉で状況や心象を的確に表現する歌詞が少ないような気がする。あの頃の荒井由実井上陽水中島みゆきらの作品は、メロデイもさることながら、特に歌詞が良く出来ていた。

サウンド・オブ・サイレンス  The Sound of Silence

 言わずと知れた、映画「卒業」の挿入曲。ギターの印象的なイントロで始まる名曲だ。サイモンとガーファンクルは、ビートルズと並んで高校時代から強く惹きつけられていた。好きな曲はたくさんあるが、この曲は歌詞が特に印象的である。当時私は彼らの楽曲で英語を勉強もしていた。今どきの、英語がチャラチャラ入る歌詞など、中身が何もないのと対照的。

 この曲の歌詞は、現代社会の問題点を抉るような鋭さを感じさせる。後で知った話だが、この曲が書かれたきっかけは、ケネディの暗殺事件だったそうだ。それで「なるほど」と思った。「預言者の言葉は地下鉄の壁やアパートの廊下に記されている」とか「人々は語ることもなく話し、聴くこともなく聞く」と言った歌詞は、凡人にはとても思いつかないものだ。彼らの問題意識の鋭さを改めて感じる。この曲も1964年に作られて60年近く聴かれ続けている。

レット・イット・ビー  Let It Be

 S&Gを挙げたからには、ビートルズを挙げないわけには行かない。彼らこそ、私の青春そのものだったからだ。高校時代に出会って以来、ずっと好きでいられた不滅のバンド。この曲も、あまりに有名で今さらの感もあるが、やはり挙げないではいられない。

 上記した通り、映画「Let It Be」を見たのが、最初の出会いだったかと思う。ポールのソロとピアノが印象的だが、バックでコーラスするレノンとジョージもなかなか良い。彼らが活動したのは1962年~1970年頃の約9年間しかないが、その間に彼らの風貌は大きく変化した。それは彼らの「青版」と「赤版」の同一アングルの写真から一目瞭然だ。たった9年ほどで4人ともこんなに変わるものかと驚くほどだ。

 この曲はビートルズ「最晩年」の作と言って良いが、中身的にも深い意味を込めていると思う。Let It Be 為すがままにせよ、そのままで良いんだよ・・ 一説には「神の思し召しのままに」とも訳されるが、あるネイティブが、ポールはそんなにキリスト教を強く信仰していなかったと言うのを聞いて、前者の方がふさわしいと感じた。Mother Maryも、ポールの母親の名がMaryだったからで、必ずしも聖母マリアでもないらしい。キリスト教圏ならMother Mary=聖母マリアが一般通念らしいけど。

 こうしてみると、私の好きな曲は何十年も歌われ続けてきたものばかりだ。この種の、時が経っても古くならない作品を、Classicと言うのだ。