宇宙開発批判 続き

世の中の人々が、宇宙開発やロケット打ち上げになぜこれ程にも無批判なのか、私には理解しかねる。現実を無視した議論がマスコミ等に多すぎるのが、大きな原因だとは思うが。

例えば、最近打ち上げ失敗した「民間」ロケットがあるが、民間とは名ばかりで、資金の多くは政府関連団体からの補助金、つまり原資は税金なのだ。商売ベースでは、どだい無理だから。

しばしば、将来予測として「宇宙ビジネス」が取り沙汰されるが、実際には商売ベースで成り立つ宇宙関連事業は、おそらくあり得ない。月と地球の間で物資を運ぶ「輸送ビジネス」を考える向きもあるが、そのユーザー数や運ぶ物資の量を考えたら、その輸送単価は恐ろしく高いものになることは明らかだ。一体誰が払えるのか?もちろん、国か関連団体しかない。つまり、ここでも原資は税金であって、通常の運送業のような形でお金が回る仕組みは、まずあり得ない。

また人間を乗せて地球周回とか月往復とか行う「ビジネス」の場合、運賃が何億円とか、恐ろしく高いものになるので、ごく一部の大富豪の「お遊び」にしか使えない。比喩的に言えば、うんと高いジェットコースターとか何かのアトラクションに乗ってスリルを愉しみ「ああ面白かった」と言うのと本質的には変わりがない。なぜ、こんなものをもて囃すのか・・?

また、一部の人々は「地球が気候変動等で住めなくなったら、月や火星その他へ移住するんだ!」と勇ましいことを言うが、月や火星で長く生活することが如何に困難を極めることかを理解していないから言える話だと、私は考える。

人類は今のところ、最も近い天体である月にさえも往復したことは史上一度しかなく、次回は未定である。まして、月に「住む」のは、相当に困難だ。空気が全くなく、水もない。植物が育つ条件は全くないから、工場でも建てないと無理だが、相当な建屋面積が要るし建設作業を誰がやるのかという問題もある。水・空気・肥料・光を供給して植物を育てないと、持続的な食料供給は不可能だ。従属栄養生物である人間は、植物等の独立栄養生物なしには生きて行けないから。植物に頼らず、化学合成で無機物から有機物を作るのは、まだまだ先の話である。ましてや、光合成(H2O、CO2→糖、O2)や生物的窒素固定(N2→NH3、アミノ酸)のような高効率・精密な合成を細胞レベルで実現するなどは。結局、困難な化学合成をするよりも、各種植物を育てる方が簡単で早い。月面で人間を養えるほどの植物工場が作れるかどうか、これが第一の関門。地球上では、一人当り1ヘクタール以上要るらしいが、月面では格段に効率化しないと、建設がもっとずっと困難になるだろう。

また、もし一定数の人間が月で生活する条件ができるとすれば、上記からそれは地球から相当量の必要資材・機材等を持ち込まないとできないはずだし、それには膨大な数のロケットを飛ばさないといけないだろうと予想される。ビジネスなど、できる余地があるのかどうか?

人間が持続可能な形で生き続けるには、酸素・水・食料その他資材の供給と、廃棄物の処理とリサイクルの仕組みができないといけない。エネルギーは太陽光発電で賄うとしても、それ以外の物質的条件を満たさないと持続可能にはならない。地球上でさえも、周囲と隔絶されたカプセル内で長時間生き続けることは困難だった(過去に実験したことがある)。

次に近い火星へも、有人飛行はかなり困難なはずだ。そもそも、行くのに年オーダーの時間がかかる。その間の酸素、水、食料等の必要量は膨大だ。しかも火星に着いたら、再び飛び出すには地球を出発するに近い推進力が要るから、その燃料や機材も準備する必要がある。だから先に無人機で必要なものを送り込んでおくとする構想もある(無茶苦茶大変)。

人間が火星に移住すると言う計画もあるそうだが、これも絶望的に困難だ。まず、空気がない。火星の大気は圧力で地球の0.75%しかなく、その大半はCO2である。酸素はほとんどない。水も、地下に氷があるか探っている段階で、表面には皆無のようだし、現状の観察では緑は全く生えていない(生命の痕跡さえ、まだ探している段階だ)。この環境下で食料生産など到底できそうもないから、月と同じ問題が起こる。結局、地球に最も近い天体でさえ、移動自体が困難で、まして「移住」など夢物語に近い。

また宇宙の巨大さについて、もう少し理解を深める方が良い。実は、私は子供の頃「天文少年」であって、天体観測に勤しむ傍ら、天文学関連の書籍を種々読みあさり、宇宙に関する知識を相当程度に貯えた。そして、初めは宇宙旅行などへの夢に酔いしれていたが、次第に現実を知るにつれ、宇宙への旅など単なる「夢物語」であると実感するようになった。その主な理由は、何と言っても宇宙が大きすぎることである。

まず、地球と太陽の平均距離を1天文単位au)と言い、約1億5千万kmである。地球と月の間隔が約38万kmだから、その400倍近い遠距離である。ちなみに、現状、最も遠い惑星である海王星まで約30auある。これを一応、太陽系の半径とする。光の速さで1auは8.3分、海王星までは約4.16時間、つまり、光速だと太陽から出発して太陽系を飛び出すのに4時間ちょっとしかかからない(以前は惑星だった冥王星までだと、もっと遠いけど)。

ところが、一番近い恒星(プロキシマ)までは4.25光年離れている。つまり光速で飛行しても4年以上かかる距離にある。今の人工衛星で最も地球から離れ、宇宙を飛んでいるボイジャー1号の速さでも、1光年飛ぶには1万8千年かかる。つまり、一番近い恒星に着くには、7万7千年かかる。往復すると15万年以上・・。飛ぶときは「冬眠」状態にするんだという話もあるが、人間を冬眠でも15万年持たせる装置なんて、夢でしかないだろう。時空を反転させてワープ・・と言った話は、SF小説に任せる。こっちは、現実的な話をしているので。

科学者たちの中には、宇宙飛行船も超長時間飛行に耐えるために、自己複製型の装置を作るとか言っているが、どうやって実現できるのか、私には見当もつかない。乗っている飛行士たちも「自己複製」させるのか・・?それでも15万年は長すぎる。もし無事に帰ってきても、その頃の「子孫」と話が通じるのかさえ分からないだろうし、地球に人間が住んでいるかどうかも分からない。しかもこれは最も近い恒星系に行った時の話で、10光年も離れたらもっと絶望的だ。

これはつまり、広い宇宙には地球に似た星や人間のような生物がいるとしても、お互いにたどり着き交信することは絶望的に困難だと言うことだ。電波で交信してさえも、片道何年もかかるのに。

そんな夢物語の前に、人類はこの地上においてこそ、やらなければならないことが多数ある。打ち上げるのは無人の通信・探査衛星程度にとどめ、遙か彼方の宇宙について語るのは、地上の問題が解決してからにしてもらいたい。