大手マスコミが伝えないあれこれ

原子力資料情報通信」596号が届いた。私は勉強のためにこれを定期購読している。今月号も、新たに知る事柄が多い。

一つは、311子ども甲状腺がん裁判の報告だ。福島原発事故当時6歳~16歳の6名に、当時12歳だった女性が加わり計7名が原告となった裁判である。最大の争点は、福島原発事故による被ばくと原告らの甲状腺がん罹患との因果関係にある。原告らは原因確率約95~99%であることから、法的な因果関係があると主張し、東電はそれを否定する。東電は甲状腺に100mSvを越える被ばくをしなければ甲状腺がんにならない(100mSv閾値論)が、原告らの被ばく量はせいぜい10mSvなので、原因は被ばくではない、子どもが元々一定割合で甲状腺に潜在がんを持っていたのだと。しかし原告は、100mSv閾値論を裏付けるデータは存在しないこと、体内に取り込んだ放射性ヨウ素による内部被ばくの寄与が大きいことなどで反論している。

ここでの問題点は、甲状腺に取り込まれるヨウ素131が物理的半減期8日で減少するので、時間が経つと被ばく量が分からなくなる点である。チェルノブイリ原発事故の際に、当時のソ連は数十万人の子どもの甲状腺直接測定をした。しかるに、日本国では、飯館村など数カ所で僅か1080人の直接測定を行っただけで、後は打ち切った。むろん、原告たちは当時直接測定を受けていない。2011年の日本政府より、1985年のソ連政府の方がずっと誠実だったことになる。

直接測定データがないので、様々な方法で被ばく量の推定を行うしかないが、これがなかなか難しい。それらの詳細は支援ネットワークのサイト(https://www.311support.net/)に譲る。

裁判以前の現実問題として、2023年11月時点で、福島県の発表では、原発事故当時18歳以下だった福島県民約38万人から、少なくとも363人の小児甲状腺がん患者が発見され、うち261人は手術済みであるとの事実がある。小児甲状腺がんは本来、年に100万人あたり1~2人しか発症しない稀な病気なのに、100/38×363=955、つまり450~900倍もの多発である。「潜在がん」などではとても説明できない頻度だろう。

我々国民としては、まずはこうした事実を正確に知ることが第一に必要なはずだが、大手マスコミは、この裁判の存在自体を報道していない。少なくとも私は、今日まで知らなかった。幸い、上記のホームページもあることなので、興味を持たれた方は訪れて、正確な情報を入手していただきたい。

また、志賀原発に関しても、以前私が書いた危惧が新たに載っている。曰く「事前に想定できていなかった複数の活断層の連動による大地震の発生、海生段丘が発達する地域での地盤隆起から想起される建物・構造物の破壊や冷却用水取水の不能の可能性、二次的な敷地内小断層の活動による施設の破壊の可能性など、原発の安全性を直撃する問題がいくつも明らかになった。また、事故時の監視システムとしての自治体が設置したモニタリングポストが機能しなかったことや避難道路の崩落も起き、地震による原発事故が起こればひとたまりもないことが改めて明らかになった」と。

しかし一方では「能登半島地震志賀原発の備えは奏功した、心ないデマは被災地にとって迷惑だ 原子力安全の常識があれば分かる偽情報に惑わされてはいけない」(https://cigs.canon/article/20240213_7885.html)との記事もある。しかしこの記事でも、敷地内で35cmもの地盤沈下があったことは触れていない。この地盤沈下がデマ情報でないことは、NHKのサイトに載っていることでも明らかだろうに。

あと今回の「通信」には、福島第一原発で23年10月と12月に起きた二つの被ばく事故についての報告が載っている。被ばく評価や身体汚染状況の推定など、かなり詳しい報告だが、こうした内容も大手マスコミに載ることはほとんどない。結構深刻な事態なんだが。

これは既に報道された内容だが、福島第一原発事故の対処費用が23.4兆円に増額された。そのうち国債が15.4兆円(賠償9.2、除染4、中間貯蔵2.2各兆円)で、東電の賄う廃炉費用は8兆円だ。国費が15兆円って、とんでもない金額だが、これでも「原発は安い」なんて言い張るのだろうか・・?

何兆円などと聞くと、以前、地下水を止めるための遮水壁工事が、1000億円かかるからと言って取りやめになり、代わりに効果のない「凍土壁」を造った超愚策を思い出す。この時1000億円をケチらなければ、今頃海洋放出などせずに済んだだろうに。たった0.1兆円で。

また今日は、17時~18時に開かれた原子力市民委員会連続オンライントーク「液体放射性廃棄物を海に流し続けることは許されるのかー「ALPS処理汚染水放出差止訴訟」の展望(https://www.ccnejapan.com/?p=15045)を視聴した。これまた、種々新たに知ることの多い勉強会だった。特に衝撃的だったのは、隣国の韓国ではマスコミが日本の「原子力ムラ」に支配されていないので、かなり広く正確な報道がなされているので、韓国市民の方が福島の状況については日本人よりはるかに多く知っていると言う事実だ。この点でも、海洋放出を少しでも批判すると誹謗中傷が山ほど飛んでくる日本とは大違いだ。

考えてみれば、福島事故で既に大規模な環境汚染を世界にばらまいておきながら、今度は「処理済み」とは言え未だ大量の放射性核種を含む水を太平洋に放出するとは、まさに天に唾するような行いではないだろうか?一度放出してしまったら、もう取り戻せないのに。この行為が国際環境法に反する環境犯罪行為であり決して許されない、との原告側主張には大いに同感させられる。

折から、この12日には「太平洋・島サミット」の中間閣僚会議に上川外務大臣が出席し、処理水の海洋放出の安全性についても説明したらしいが、フィジーその他の環境NGOを説得できるような説明はできたのだろうか?日本語報道では分からないが、この放出に対する国際世論の風当たりは、国内では全然分からないほどに強いものであると、今日の勉強会で知った。

何事につけ、マスコミ報道を鵜呑みせず、しっかり事実を追い求めることが重要だ。